2019.12.16-19
学振拠点形成セミナー
TOWARDS A CURE FOR AMYLOID DISEASE:
a successful example of precision and translational medicine
- PAVIA - ITALY

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 2019年12月16-19日の4日間イタリア・パビアで本事業主催の国際セミナー「TOWARDS A CURE FOR AMYLOID DISEASE」が開催された。日本からの参加者22名(教授7名、准教授5名、助教6名、研究員2名、学生2名)を含む約80名の参加者による活発な議論と交流がおこなわれた。

Dec 16, 18:00-20:00
Opening Ceremony.


 Opening lectureでは、長崎国際大学の安東由喜夫先生より、「Novel insights in the pathogenesis of hereditary ATTR amyloidosis」をテーマに貴重な講演をしていただいた。ATTRの概要から始まり、診断法および治療法について最新の知見を交えながらATTRにとどまらず、アミロイド病全般に応用可能な知識を教授していただいた。診断法に関して、アミロイド病はアミロイド蓄積により病態が進行することから、早期発見が重要であり、1. 臨床所見、2. 生検、3. 遺伝子検査を用いて総合的に診断を行うことが重要である。また、現在アミロイド病に用いられる治療として、「アミロイド構造形成阻害薬」と「抗体療法」が主に用いられる風潮にあるが、治療法は日々変化している。これらの事実から一つの方法にとらわれることなく、総合的に考えていくことの重要性を再認識した。また、現在忠実な疾患モデル動物がいないという点も今後の研究の進歩において解決すべき問題点であると感じた。(岐阜大学 木村慎太郎)

Dec 17, 9:00-12:30
Process of protein misfolding in a biocompatible environment.


 17日午前のセッションはin vitro解析とアミロイドーシス治療を繋げる研究をされている5名の先生方のご講演があった。
 最初のご講演は大阪大学の望月秀樹先生でした。家族性パーキンソン病において重篤な症状を引き起こすαシヌクレインG51D変異体に着目され、in vitroで重合させた線維が、天然型よりβシート含量が高い事を発見された。さらにそのG51D重合体をマウス脳へ接種する事で、レビー小体の形成、ドーパミンニューロンの脱落というパーキンソン病の病態をマウスで再現され、PD研究の大きな進展を感じた。
 2人目はMunich 工科大学(ドイツ)のJohannes Buchner先生で、抗体軽鎖によって引き起こされるALアミロイドーシスのメカニズムについてのご講演だった。前半では、個々のアミロイドーシス患者に蓄積する抗体軽鎖の配列により、細胞外への分泌量が異なる事を細胞実験で示され、また後半ではALアミロイドーシス患者のVLフラグメントが、疎水性領域の露出が多い構造である事がNMR測定で示され、アミロイド形成との関連が示唆された。
 3人目はUdine大学(イタリア)のAlessandra Corazza先生で、TTRの安定化によるアミロイド形成阻害についてご講演された。TTR4量体の2箇所のチロキシン結合サイトに結合する一価のリガンドtafamidis及び二価のリガンドmds84の結合は広範囲の構造変化を引き起こし、またtadamidrsは片側のみの結合でも、もう方側の構造変化がゆっくり進行する事が発見された。
 4人目はUlm大学(ドイツ)のMarcus Fandrich先生で、アミロイド-シス患者の体内から取り出したアミロイド線維のクライオ電顕による構造解析についてのご講演でした。全身性アミロイドーシスAA、AL、ATTRについて取り上げられ、これらアミロイド線維の断面構造はコンパクトでキャビティを持つという共通点があった。同じくクライオ電顕で解析されたタウ蛋白質との違いが明確であり、非常に興味深い結果であった。
 5人目のSussex大学(イギリス)のLouise Serpell先生はアルツハイマー病のリスクファクターとして知られる、Apo E4の構造、物性について他のアイソフォームE2、E3と比較した結果をご紹介いただいた。これら3つのアポリポプロテインは安定性や構造面では違いがないが、Apo E4のみ線維状に重合する性質を持つ事を発見され、その線維はクロスβ構造を持たず、アミロイド線維とは異なる構造である事を示された。(神戸大学 大橋祐美子)

Dec 17, 15:00-18:30
Mechanism of formation of amyloid nuclei in vivo and in vitro.


 17日午後のセッションでは5名の先生方の講演と若手研究者によるポスター発表があり、活発な議論が交わされた。
 大阪大学蛋白質研究所の後藤祐児先生は、普遍的な物理化学現象である過飽和の視点から、アミロイド線維の形成反応が、①熱刺激や超音波刺激などによる蛋白質の構造変性(核形成)を律速とし、②過飽和状態の解消に伴う線維伸長反応(結晶化)を基盤とすることを報告した。また、β2ミクログロブリンをモデルとして、蛋白質の3つの構造状態(ネイティブ構造、変性構造、アミロイド線維)と溶液状態(温度と溶解度)との関係を計算的に立証することで、過飽和がアミロイドーシス病態などの生命科学現象に影響を及ぼす普遍的な概念であることが提起された。
 Toronto大学(アメリカ)のPaul Fraser先生は、SUMO(Small ubiquitin-like modifier)によるユビキチン化と類似した蛋白質の修飾に着目し、in vitro系を用いてタウやαシヌクレインといった神経変性疾患で異常蓄積する蛋白質がSUMO1によって高度に修飾されることを示された。さらに、アミロイドβ沈着モデルマウスにおけるSUMO1の過剰発現が、アミロイド沈着の亢進や認知機能を低下することが示され、蛋白質のSUMO化による異常蓄積と病態機序の関係が示唆された。
 慶応義塾大学理工学部の古川良明先生は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)において異常蓄積が認められるSOD1(90%は非遺伝性で孤発型)について、ALS患者の脳における酸化ストレスレベルの上昇やSOD1が過酸化水素によって異常なジスルフィド結合に修飾されることを報告された。さらに、金属イオンの乖離がSOD1の立体構造の不安定化ならびに細胞毒性の獲得を誘導するという、ALSにおけるSOD1の異常蓄積の詳細なメカニズムが明らかとされた。
 大阪大学工学部の荻博次先生は、透過型電子顕微鏡による溶液試料の観察(溶液TEM)によって、アミロイドβ同士が距離依存的に結合反応を示し(特に10~20nmで強強度)、網目状構造を持つ線維が形成されることを報告した。また、超音波により形成される溶液中の気泡表面にアミロイドβが結合し、気泡が縮む際に凝集すること示し、これらの現象が、溶液中で常に繰り返される塩の析出と溶解によっても誘導されるという仮説が提唱された。
 Nice大学(フランス)のCristina Cantarutti先生は、β2ミクログロブリンのin vitro系をモデルとして、アミロイド線維の形成を阻害するナノ粒子(Citrate-stabilized gold nanoparticle)についての報告をされた。このナノ粒子は蛋白質の立体構造の大きな変化を引き起こすことなく、蛋白質間の相互作用を抑制することで、アミロイド線維形成の初期段階を競合的に阻害する。また、構造解析の結果からナノ粒子が分子ノット (Molecular knots) として作用することが示唆され、今後のアミロイドーシスの治療戦略として期待される報告であった。
 これまでのアミロイドーシス研究から、線維核がアミロイド線維伸長反応を加速度的に進行させる、いわゆる重合核依存性重合モデルが、生体内におけるアミロイド沈着やプリオン病様の伝播現象に重要であることが明らかとされてきた。しかしながら、それらの根本である核形成のメカニズムについては未解明な部分が多く存在した。本セッションでは、過飽和という新たな視点からの核形成メカニズムが提唱され(後藤先生)、革新的な顕微鏡技術により核形成の初期段階の観察像が報告された(荻先生)。また、生体内では、前駆蛋白質の構造不安定化(古川先生)や異常凝集体の分解阻害(Fraser先生)を引き起こす様々な蛋白質修飾が存在することが示された。今後のアミロイドーシスの治療戦略として、遺伝型ATTRアミロイドーシスに代表される前駆蛋白質の構造安定化剤と並行して、分子ノット(Cantarutti先生)のような核形成の阻害剤の開発が期待される。(信州大学 宮原大貴)

Dec 18, 9:25-12:30
Role of amyloid seeds in disease acceleration.


 18日午前のテーマは「Role of amyloid seeds in disease acceleration」で、大阪大学医学部の池中建介先生の「Conformational conversion of ?-synuclein monomer regulates the distinct types of fibrils」から始まった。パーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症のいずれの疾患もα-シヌクレイン凝集体が蓄積する共通の特徴を持つが、その蓄積の場所や臨床症状は異なる。池中先生はin vitroで、?-シヌクレインが異なった2つのタイプ(ロッド型とツイスト型)の線維を形成することを明らかにし、それぞれの線維の物性を発表された。また、家族性パーキンソン病の?-シヌクレイン変異体を用いて、それぞれの変異体がどちらのタイプの線維を形成しやすいかを明らかにした。これら線維の異なった特徴が、臨床症状と相関するかは今後の研究課題である。
 次は、ロンドン大学(イギリス)のGillmore先生の「Advances in Diagnosis, Staging and Treatment of ATTR Amyloidosis」であった。Gillmore先生は、近年、イギリスでトランスサイレチンアミロイドーシスの診断が増えていることに言及され、早期診断の必要性と新しい診断技術の開発を発表された。磁気共鳴画像や骨シンチグラフィーを用いた新しいイメージング技術の開発は、これからの非侵襲性診断として非常に有用であると感じた。また、最近注目されているASOやsiRNAを用いたトランスサイレチンアミロイドーシスの新規治療法開発についても発表されていた。これまでのタファミディスのようなトランスサイレチン安定化剤とは異なった治療戦略は非常に興味深い内容であった。
 午前の最後は、Pavia大学(イタリア)のMerlini先生の「AL amyloidosis, from molecular mechanisms to effective therapies」だった。Merlini先生は、ALアミロイドーシス研究の大家であり、タイトル通り分子レベルの基礎研究から臨床研究まで幅広く発表された。基礎としては、ALアミロイドーシス中の細胞障害のメカニズムとして、原因蛋白質である免疫グロブリン軽鎖によるp38 MAPK経路を介したカルシウムイオンホメオスタシスの損傷が細胞障害につながるのではないかと発表されていた。臨床研究としては、ALアミロイドーシスの病期診断のバイオマーカーとして、NT-proBNPの有用性について、また、プロテアソーム阻害薬として知られているボルテゾミブのALアミロイドーシス治療への応用を報告された。いずれもALアミロイドーシス研究の最前線の知見を拝聴することができ非常に勉強になった。Merlini先生の発表後、ラウンドテーブルディスカッションが行われたが、ここでもそれぞれの先生の研究に関する議論が活発に行われた。(大阪大学 小澤大作)

Dec 18, 15:00-18:30
Mechanism of physiological protection against amyloid formation.


 18日の午後は、4人の発表が行われた。最初の発表者であるオーストラリア国立大学(オーストラリア)のJohn Carver先生は、水晶体を構成する蛋白質群crystallinの中で、特にαB-crystallinの透析アミロイドーシス関連蛋白質β2microglobulinのアミロイド線維形成を阻害する分子シャペロンの役割について報告された。αB-crystallinは、中性pH条件下でβ2microglobulinのオリゴマー形成を解離させる働きを示し、その結果アミロイド線維形成が阻害されること、細胞毒性が抑制されることを明らかにした。
 次の信州大学医学部 樋口京一先生の発表は、apolipoprotein A-II(apoA-II)由来アミロイド線維AApoAIIが全身に沈着するマウス老化(AApoAII)アミロイドーシスに関する内容であった。マウスでは血清高密度リポ蛋白質(HDL)のアポ蛋白質であるapoA-IIが加齢に伴い微細なアミロイド線維蛋白(AApoAII) に重合し全身に沈着する。この過程でアミロイドーシスが発症・進行するが、プリオン病と類似した「アミロイド線維の伝搬」(seeding現象)が、マウス老化のアミロイドーシス発症や病態の進行の重要な要因であることを明らかにした。また、老化促進モデルマウスや培養細胞を用いた老化、抗老化研究に関する結果も紹介され、ダイエット、運動、抗酸化作用がマウスの老化に対して効果的であることを明らかにした。
 3人目のUppsala大学(スウェーデン)のGunilla Westermark先生は、Ⅱ型糖尿病関連のIAPPアミロイド線維形成を阻害する蛋白質BRI2(integral membrane protein 2B)の効果に関する研究発表を行った。IAPPとBRI2は、ヒトのβ細胞に局在する。BRI2は、IAPP線維に結合し、線維のseeding potencyを低下させることで、IAPPアミロイド線維形成及び細胞毒性を抑制することを明らかにした。
 最後の発表者であるPlico Biotech(アメリカ)のLuana Fioriti先生は、アルツハイマー病関連タウ蛋白質のアミロイド線維形成を抑制するSUMO蛋白質(SUMO2)の効果について報告された。SUMO蛋白質は、細胞内の他の蛋白質に一時的に共有結合して(SUMO化)その機能を助ける蛋白質として知られている。発表では、in vitro条件下で、タウ蛋白質のSUMO化を起こし、その結果タウのアミロイド線維形成が抑制される、及び毒性効果が低下することを報告した。4人の発表後、アミロイドーシス抑制に関するRound Table Discussion が行われた(Eotvos Lorand 大学(ハンガリー)Jozsef Kardos先生座長)。主にアミロイド線維形成で起こるsecondary nucleationやcross seeding効果に関しての意見交換がなされた。(大阪大学 笹原健二)

Dec 19, 9:00-12:30
Mechanism of tissue damage caused by amyloid conformers.


 19日午前のセッションは、Uppsala大学(スウェーデン)のPer Westermark先生が座長で”Mechanism of tissue damage caused by amyloid conformers”というテーマで開催された。一人目の演者Florence大学(イタリア)のFabrizio Chiti先生は”Mechanisms of cell dysfunction caused by misfolded protein oligomers"というタイトルで話をされた。オリゴマーには毒性の有るものと無いものありがありこれらは電顕やAFMの画像からは全く区別できない。これらのオリゴマーの細胞毒性を発揮する仕組みについて話された。
 2人目の演者は大阪大学医学部の永井義隆先生で、”Disease-modifying therapy for the polyglutamine diseases targeting protein misfolding and aggregation"というタイトルで、ポリグルタミンの構造変換機構、毒性、ポリグルタミン病に対する創薬について話された。線維伸長を抑えるポリペプチドや低分子化合物を見つけられており、これらがショウジョウバエの系でもマウスの系でも有効であることを示された。
 3人目の演者Christian-Albrechts大学Kiel(ドイツ)のChristoph Rocken先生は、”Amyloidosis - more than a misfolded peptide aggregate"というタイトルで、アミロイド形成に関連する膨大な因子をひとつひとつ説明された。アミロイド病は、ひとつの因子だけで解決できる問題ではなく、異なる分野の研究者が協同し多方面から解決する必要があるとのことだった。
 4人目の演者Porto大学(ポルトガル)Maria Saraiva先生は、”Pre-clinical studies in a V30M rodent model: contribution towards elucidation of tissue damage mechanism” というタイトルで話をされた。
 最後のラウンドテーブルディスカッションでは、近畿大学・桜井一正先生と大阪大学・宗正智先生が座長をされ、細胞毒性を発揮する仕組みについて議論をした。細胞毒性がオリゴマーの構造情報に基づき定量的に説明されるようになることが期待される。(岐阜大学 鎌足雄司)

Dec 19, 15:00-17:00
Critical issues emerging from the current therapeutic strategies targeting the molecular mechanisms of the disease.


 19日午後からは、主にアミロイド病の臨床系の発表であった。まず、Bologna大学(イタリア)のClaudio Rapezzi先生により“Pathophysiology of amyloid in the heart”のタイトルで、アミロイド性心筋症について、TTR、免疫グロブリン性アミロイドーシス(AL)、老人性全身性アミロイドーシス(SSA)が報告された。
 次に、Fondazione IRCCS Policlinico San Matteo(イタリア)のLaura Obici先生により“What drives phenotypic heterogeneity in hereditary ATTR? Impact on natural history and response to treatment”の発表があり、ATTR変異と神経症や心筋症の関連性、V30MのEarly-onsetとLate-onsetについて報告があった。また、遺伝性TTRアミロイドーシスにおける肝移植やTafamidis、RNAiによる治療法が紹介された。
 Heidelberg 大学(ドイツ)Stefan Schonland先生の“Can Genetics explain AL Amyloidosis?”の発表では、ハイデルベルグ大学病院のアミロイドーシスセンターの研究紹介があり、全身性アミロイドーシスの一つであるALアミロイドーシスについて、クライオ電顕によるALアミロイド線維の構造解析や遺伝的データをもとにした多発性骨髄腫との関連について報告された。
 最後に、Closing Remarksでは、アミロイド研究がさらに広がり展開していくことが期待され、結びの言葉とされた。(大阪大学 山口圭一)